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AI時代を加速する
「ふたつのAIぐるぐるモデル」

斉藤 徹 

実際にAI活用に成功している企業が持っている、組織と市場の学習ダイナミクスを統合的に説明する概念モデルについて紐解いていきます。

二層のAIぐるぐるモデル
──市場と組織を同時に進化させる"学習構造"の正体

AIがあらゆる領域に浸透し始めた今、企業の競争環境は大きく変わりつつあります。かつては人材や資本、ブランドといった企業の強みが競争優位の源泉でした。しかしAI時代においては、その強みは徐々にコモディティ化し、企業ごとの差異が小さくなりつつあります。

では、この新しい環境で企業の競争力はどこで決まるのでしょうか。
答えは、「どれだけ早く、深く、そして継続的に学習できるか」です。

AIを使いこなす企業は、他社より速く学習し、学習した知識を価値に変換します。結果として、同じ市場に存在していても、まったく異なる成長軌道を描くことになります。

本章では、この学習の構造を “二層のAIぐるぐるモデル” という視点で整理します。これは単なる比喩ではありません。実際にAI活用に成功している企業が持っている、組織と市場の学習ダイナミクスを統合的に説明する概念モデルです。

まず、このモデルの全体像から見ていきましょう。

■ 市場のAIぐるぐるモデル──AIがもたらす「加速する学習」

今日のAI活用の議論は、多くが「市場のAIぐるぐるモデル」に集中しています。

サービスを提供すればユーザーが使い、ユーザーが使えばデータが貯まり、そのデータをAIが学習します。するとサービスの品質が向上し、さらにユーザーが増え、さらにデータが貯まる……という循環です。

この循環がうまく回れば回るほど、企業は以下の特徴を持つようになります。

  • 改善のスピードが加速する
  • 顧客理解が深まる
  • サービスの質が指数関数的に向上する
  • 市場の変化に対して即座に反応できる

すなわち、「外側で見える学習」が市場をドライブするのです。

Google、Netflix、Amazon、Spotifyなど、多くの成功企業はこの市場AIぐるぐるモデルの構築にいち早く成功しました。AIやデータの力を使ってユーザーを増やし、価値を磨き、さらなるデータを回収する。

これが市場における強力な成功パターンです。

しかし──です。
この外側の循環だけを真似しても、成長が長続きしない企業が非常に多くあります。

なぜでしょうか。それは、市場のAIぐるぐるモデルを支えるべき「内側のAIぐるぐるモデル」が存在しないためです。

AIでサービスを改善できても、そこに「意味」を与え、方向性を定め、創造的な打ち手に変換する機能が組織内に存在しないのです。これが「そしぼく」で提唱した「組織のAIぐるぐるモデル」です。

■ 組織のAIぐるぐるモデル──“人間の学習”がつくる創造のエンジン

市場のAIぐるぐるモデルが「外側の学習」だとすれば、組織のAIぐるぐるモデルは「内側の学習」です。こちらはAIが登場する以前から組織に存在する、人間の成長メカニズムです。

モチベーションが学習を促し、学習が洞察を生み、洞察が成果を生み出し、その成果がまたモチベーションを生む。つまり、「やる気 → 知識 → ひらめき → (成果) → やる気 …」という循環です。

ここにAIによる「共鳴化」が加わり、組織の実践知が蓄積されていくと、この循環が加速する。これが、AI時代における“創造の源泉”となるのです。

たとえば、データから得られたパターンをただ分析するだけでは競争力のある価値は生まれません。「なぜその行動が起きているのか」「どうすれば顧客の未充足ニーズを満たせるのか」といった深い理解が必要です。

そして、この深い理解は、やる気を失った組織からは生まれません。
知識の共有が途絶えた組織からも生まれません。
表面的な学習しかできない組織からも生まれません。

内側の学習が死んだ状態で外側だけAIで図面を引き直しても、実行される施策は凡庸になります。これは今、多くの企業が直面している「AI導入の限界」です。

■ 二つのAIぐるぐるモデルは“独立ではない”──相互作用する二層構造

ここまで見てきたように、

  • 市場のAIぐるぐるモデル
  • 組織のAIぐるぐるモデル

この二つはまったく性質の違う学習モデルです。しかし重要なのは、両者が独立した別々の循環なのではなく、互いに回転を与え合う“二層の構造”だという点です。

この二つのAIぐるぐるモデルは、企業の中で“三本の橋(ブリッジ)”によってつながっています。このブリッジを理解せずにAIを導入すると、部分最適に終わり成果が出ません。逆に、この三本の橋を丁寧に設計できれば、企業は継続的に進化し続けることができます。

では、その橋とは何でしょうか。

■ 三本の橋(ブリッジ)がつくる“知識の流れ”

以下では、3つの橋に 具体例 を加えて説明します。

● ブリッジ1:ひらめき → サービス改善(組織 → 市場)

組織内で生まれた洞察が、サービス改善の起点になります。

たとえば、
営業担当が「顧客が意外に困っているポイント」に気づき、
その現場知を共有した結果、UXチームが小さな機能改善を行い、解約率が下がる
といったケースです。

どれほどAIが高度化しても、人間の「文脈を読む力」は代替困難です。
この力によって、市場のAIぐるぐるモデルが回り始めます。

● ブリッジ2:データ → 知識化(市場 → 組織)

市場で生まれたデータは、組織の学習素材になります。

たとえば、
サポートセンターの問い合わせデータをAIが分類し、
 「実は仕様理解の誤解が多い箇所」を可視化する
アプリ利用データをAIが要約し、
 「ヘビーユーザーが週3で使う3つの機能」を抽出する
といったケースです。

こうしたデータ処理により、チームは本質的な問いを立てやすくなり、組織内部の学習が加速します。

● ブリッジ3:ユーザー増加 → やる気(市場 → 組織)

外側で得られた成果は、内側のモチベーションを直接押し上げます。

たとえば、
AIが売上改善施策の結果を可視化し、
 「この三つの変更が、顧客満足を12%改善した」とチームに示す
顧客レビューをAIが要約し、
 「この改善を喜んだのは、こういう背景を持つお客様だ」と共有する
といったケースです。
成果が言語化されストーリーとして伝わることで、チームは「自分たちの仕事は顧客に届いている」という実感を持ち、次の学習へと向かうエネルギーを得ます。

■ なぜ二層構造は強いのか──自走する組織への進化

二層のAIぐるぐるモデルが整っている企業は、外側だけ、内側だけといった部分的な成長ではなく、全体として自走するシステムへと進化します。

  1. 市場が動くたびに、組織が賢くなる
     市場の変化がそのまま学習素材となります。

  2. 組織が賢くなるたびに、サービスが良くなる
     内側のひらめきが外側の改善につながります。

  3. 成果が生まれるたびに、組織がまた学びたくなる
     成果の可視化が次の学習エンジンになります。

この状態に入ると、企業は「外的要因で動く企業」から「内的学習で動く企業」に変わります。AIの導入によって起こる本質的な変化はここにあります。AIは単なる効率化ツールではなく、組織の学習力そのものを増幅する存在になるのです。

■ 二層構造がもたらす“再現性のある強さ”

二層のAIぐるぐるモデルが優れているのは、一度限りの成功ではなく、継続的に成功を生む構造をもたらす点です。

  • 人間のひらめきは一度きりの偶然で終わらない
  • 組織の学習はデータによって増幅される
  • 市場のデータは組織の創造性を育てる
  • 成果はモチベーションを再点火する

つまり、学習と価値創造が組織内部で自己増殖し始めるのです。

これは技術導入だけでは絶対に得られない強さです。なぜなら、これは“組織文化”と“知識の流れ”という、人間とAIが共鳴しながら成長するシステム全体から生まれる強さだからです。

AI時代に本当に強くなる企業とは、外側の市場学習と、内側の組織学習の両方を回しきれる企業です。

  • 市場のAIぐるぐるモデル
  • 組織のAIぐるぐるモデル
  • そして三本の橋

この三つを設計し、運用し、継続的に磨き続けられる企業が、これからの競争環境で抜きん出ます。外側で学び、内側で学び、その両方の学習をつなぎ、循環へと昇華させる企業こそが、AI時代の勝者となるのです。

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