チームでAIを活用する
「共鳴化実践マニュアル」
斉藤 徹 / 池田朋弘 共著
このマニュアルは、普通の組織が、誰でも「チームAI」を簡単かつ低コストで導入するための具体的な道しるべです。
「共鳴化(Resonation)」とは、AIが介在することで、組織の知識や経験が結びつき、創発的な価値を生み出す新しい知識循環のプロセスです。このプロセスによって、人の強み (目的設定・内発創造性・価値判断・社会的知性)とAIの強み(スピード・正確性・記憶 力)が響き合い、人とAIの共創効果で創発的なアイデアが生まれます。
このマニュアルは、普通の組織が、誰でも「チームAI」を簡単かつ低コストで導入するた めの具体的な道しるべです。
NotebookLM、Dify、GPTs/Gem/Projectといったツール群を活用するとともに、組織固 有の知識抽出手法である「リバースナレッジ」を取り入れ、実践的な「3つのフェーズ」で 構成されています。 具体的な実践方法は、文章だけでは理解しづらいため、参考動画もぜひご覧ください。
共鳴化を実践するための3つのフェーズ
フェーズ
目的
主な手法のツール
Phase 1
共有する知識の抽出
リバースナレッジ
Phase 2
実践知の構築とツール実装
プロンプトエンジニアリング
RAG(NotebookLM, GPTs, Dify)
Pahse 3
運用・改善と知識循環の加速
Difyのワークフロー/チャットフロー
構造変化の促進
はじめに
『そして僕たちは、組織を進化させていく』をご購入いただき、ありがとうございます。
この文書では「共鳴化」を、実際の組織にどのように取り入れていくか、実践的な手順をご案内しています。
なお、現時点のLLMやRAGの技術でも、著書に書いたように「単純に議事録などを放り込む」ことで組織内のナレッジ共有はできますが、そこから十分な効果を得るためには、技術的な工夫が必要となります。その理由は以下の通りです。
1. 情報粒度と文脈のズレ:議事録は長く、複数の話題・意図・結論が混ざります。そのままRAGに入れると「どの発言が最終決定か」「誰の意見か」が曖昧になります。
2. 検索性能の限界:RAGは埋め込み検索(ベクトル検索)を使いますが、「会議での判断の背景」など抽象的な質問に対して、単純なテキスト一致では精度が落ちます。
一方で、技術進化の方向は明確で「構造化を自動化していく」流れが進んでいます。予測になりますが、今後1〜2年のうちに次のような変化が見込まれています。
1. 自動メタデータ生成:LLMが議事録から「目的」「結論」「タスク」「参加者」を自動抽出し、RAGに登録できるようになる可能性があります。(すでに一部の企業向けサービスで試験的に実装されています)
2. セマンティック階層検索:「このテーマに関する意思決定の経緯を教えて」といった高次の質問にも、LLMが議事録群を横断して要約回答できるようになります。
3. ナレッジグラフとの融合:会議情報が「プロジェクト」「担当者」「成果物」などと自動的にリンクされ、LLMがそのグラフを参照して説明可能になります。
これらにより、議事録などの非構造データを入れるだけで、組織内の知が繋がる世界が徐々に現実化していきます。「オンライン特典」では、技術進歩に伴い、最新情報を更新していきます。無料サービスですので、ご興味ある方はぜひ登録ください。
では、これから「共鳴化」をいかに実装すればいいのか、ご案内させていただきます。
Phase 1 : 共有する知識の抽出(リバースナレッジの実践)
「共鳴化」から生まれるハイブリッド型の知識「実践知」を効果的に構築するためには、まず組織のノウハウをAIが学習可能な形で言語化し、「要件」と「具体例」として抽出する必要があります。この手法が「リバースナレッジ」です。
■ステップ 1-1:成功事例(アウトプット/データ)の選定
AIの出力精度を高めるために、質が高いとされるデータ(アウトプットまたはローデー タ)を複数選定します。
● 選定基準:成果の出たものにフラグを立てて分類します。
○ 例1(アウトプット):高い反響を得たSNS投稿、受注に繋がった営業提案 書、顧客満足度の高い会議議事録
○ 例2(ローデータ):合格者が多い採用面談の音声ログ、受注案件の営業面 談ログ
■ステップ 1-2:AIが学習可能なテキストデータへの変換
PDF、PPTなどのデータは、AIにそのままファイル添付するだけでは精度が低下したり、 全部を読み込めないことが多い(AI活用における隠れた課題)ため、テキストデータに変 換することを強くおすすめします。
● 実践方法:
○ PDF/PPTの場合:PDFの文字データ化には、専用のプログラム(AIを使っ て作成可能。参考動画もあり)を利用し、全ページをテキスト化します。
○ 音声ログの場合:文字起こしを行い、テキスト形式で用意します。
● 注意点:データが多すぎる場合(数百件など)は、プログラム(Excelマクロ、 GASなど)を使って、まず「必要な情報だけをピックアップする」処理を挟みま
■ステップ 1-3:AIによる独自ノウハウの抽出と「要件」の言語化
抽出されたテキストデータ(数件〜数十件の成功事例)を、大容量のデータを読み込める LLM (現時点ではGeminiが100万トークンと圧倒的) に投入し、「リバースナレッジ」を 実行します。
1. AIへの依頼(抽出): 「以下のデータに共通する良い点や特徴を過剰書きで教えて」 「文章の構成、スタイル、表現における特徴を過剰書きで教えて」
2. 人間による精査(要件の言語化): AIが抽出した特徴(例:「問題提起と解決策の明確さ」や「重要ポイントの強調」) の中から、組織として再現したい要素をピックアップし、AIへの指示となる「要 件」として言語化します。
3. 「具体例」の整理: 抽出元となった成功事例(テキストデータ)を、「具体例」としてプロンプトに含 めるために整理します。具体例は、AIがアウトプットのスタイルやトーンを理解す るために重要です。
▼リバースナレッジに関するさらに詳細情報は、こちらの動画をご覧ください▼
自社独自ノウハウを5分で言語化する秘訣「リバースナレッジ」
PDFをGeminiで全ページ
テキスト化するプログラム
Phase 2: 実践知の構築とツールへの実装
Phase 1で得られた「要件」と「具体例」を、AIツールに組み込み、「共鳴化」の基盤であ るプライベートAIを構築します。
A. 特化型チャットの構築(GPTs/Gem/Project/Dify Agent)
プロンプトエンジニアリングは、AIに現場特有の文脈を伝えるために、誰でも手軽に活用 できる手法です。ルーティン業務の精度を安定化させるカスタムAIチャットを作成しま す。
1. 基本設定(プロンプトへの流し込み)
○ GPTs、Gem(Gemini)、ClaudeのProject機能で、アシスタントを作成し ます。
○ 設定画面(プロンプト定義箇所)に、リバースナレッジで得た「要件(抽象 知)」と「具体例(経験知)」を長文で徹底的に盛り込みます。
○ 特に長文の具体例や要件をプロンプトに入れる際は、デリミタ(例: 三重引 用符 """)を使って、指示文とデータ部分を区切ることで、
AIへの指示 (骨)が崩壊するのを防ぎます。
2. 出力フォーマットの指定
○ 議事録作成など、アウトプットの形式を固めたい業務では、「出力例」とし て期待するフォーマット(例: JSON形式、Markdown形式など)を
プロンプ トに含めます。
3. 段階的プロンプトの活用
○ 複雑な意思決定が必要な業務(例: X投稿の作成)では、全部AI任せにせ ず、途中で人間が判断や選択を挟むステップを設計します。
○ 例:「AIに5つの切り口案を出させる」→「人間が一つ選択する」→「選択 された切り口でAIが本文を作成する」
▼GPTs/Gemに関する詳細な最新情報 (25/8時点) は、こちらの動画をご覧ください▼
▶ 共鳴化ツール 〜 GPTs/Gem最新活用術 (25/8)
B. 独自型チャットの構築(NotebookLM/Dify Knowledge Base)
RAG(Retrieval-Augmented Generation)は、社内資料を参照する仕組みであり、チー ム単位で小さく柔軟に開始できるため、「共鳴化」の核心的な手法です。
B-1. NotebookLMの活用(手軽な知識深化と共有)
NotebookLMはRAG機能に特化しており、専門知識がなくとも構築・活用が可能です。
1. 知識資産の登録:マニュアル、過去の議事録、成功事例の報告書、YouTube動画の 文字起こしなどをNotebookLMに登録し、
テーマ別/プロジェクト別の「ノート ブック」を作成します。
2. 対話と理解の深化:登録された資料に対し自然言語で質問し、回答の根拠(ソー ス)を確認しながら知識を深めます。
3. 学習支援機能の活用:自動生成される「Q&A(よくある質問)」や「クイズ」を活 用し、新人の知識確認やチーム内での難解な内容の理解促進に利用します。
4. 音声概要の活用:登録したデータ(PDFや記事など)から、2人の会話形式で要約さ れた「音声概要」を生成します。
これをスマホにダウンロードし、移動中などのス キマ時間に聞くことで、難しい情報を効率的に理解し、学習を加速させます。
B-2. Dify Knowledge Baseの活用(高精度なRAG)
Difyのナレッジベースは、検索精度を高めるための詳細な設定が可能です。
1. 元データの整備:PDFやTXTファイルをナレッジベースに登録する際、データの分 割単位(チャンク長)や検索方法(ベクトル検索、ハイブリッド検索など)を
細か く設定し、検索精度を調整できます。
2. データの利用:Difyでは、登録したデータを様々なシーンで柔軟に活用でき自社独 自の知見に基づいた回答を生成できます。
C. 業務プロセスの自動化(Difyワークフロー/チャットフロー)
Difyは、AIエージェント的な複雑な処理をノーコードで実現し、知識の流れ(フロー)を 自動化するのに適しています。
1. Difyワークフローの作成(一括処理・定型業務の自動化)
○ ブロックの定義:インプット(入力項目)とアウトプット(出力データ)を 定義し、その間にLLMブロック、ツールブロック(Web検索など)、テキ スト抽出などのブロックを配置します
○ 変数引き継ぎの徹底:前のブロックで定義した出力データやインプットの値 を、次のブロックのLLMプロンプト内で明示的に変数として呼び出す必要が あります。これを怠ると、AIがデータを使用できず、精度が大幅に低下しま す。
○ バッチ処理(複数同時処理)の活用:CSVファイル形式で大量のインプット データを用意し、ワークフローを一括で実行(ランバッチ)します。これに より、何十社もの企業情報分析や、個別カスタマイズされたメール文案の量 産が可能となり、学習が加速します。
2. Difyチャットフローの作成(対話型エージェント)
○ 条件分岐の活用:会話変数(カウンター)や条件分岐(If/Else)ブロックを 用い、1回目の会話(初期検索)と2回目以降の会話(ディスカッション)で AIの処理を切り替えます。
○ メモリ機能:対話の履歴を保持するメモリ機能を有効にし、以前の会話内容 をAIが参照できるようにします。これにより、ユーザーは単なる質問だけで なく、ベテラン社員と議論しているかのように知識を深めることができま す。
○ ログの保持:チャットフローで作成されたログは左側に残り、後から見返す ことができるため、知識の共有や振り返りに有用です。
▼NotebookLMおよびDifyの最新情報 (25/7時点) は、こちらの動画をご覧ください。▼
▶ 共鳴化ツール 〜 NotebookLM最新活用術 (25/7)
▶ 共鳴化ツール 〜 Dify最新活用術 (25/5)
Phase 3: 運用・改善と知識循環の加速
AIとの協働(共鳴化)は、組織に「知識の流し込み(ストックからフローへ)」や「知識 の民主化」といった構造的な変化をもたらします。これを加速し、組織全体で継続的な改善 を行います。
A. 継続的なプロンプトとツールの改善
AIの出力精度は固定ではないため、運用を通じて継続的に改善を行います。
1. リバースナレッジの継続:ツールが生成したアウトプットの中で、特に良い結果が 出たものや、AIが出力できなかったが人間がうまく対応できた事例を、新たな「具 体例」として抽出・整理し、プロンプトに随時追加していきます。
2. LLMモデルの最適化:GPT、Claude、Geminiなど、様々なAIモデルを試行し、各 業務内容に対して最も精度の高いモデルを選定します。Difyでは、APIキーを設定 することで、複数のAIモデルを柔軟に切り替えることができます。
3. ログ分析(Dify):Difyでは、アプリの利用状況やパフォーマンスのログを収集で きるため、これを基にプロンプトやワークフローの改善点を見つけます。
B. セキュリティと公開設定の管理
組織の独自知識(実践知)を扱うため、ツールのアクセス権限を適切に設定します。
● Difyの公開設定:Difyで作成したアプリは、デフォルトではURLを知っている人な ら誰でも使える状態になるため、外部に公開すべきではないツールについては、必 ず監視画面で「ウェブアプリ」の公開設定をオフにし、アカウントを持つチームメ ンバーのみがアクセスできるようにします。
● NotebookLMの共有:Google Workspace環境でNotebookLMを利用する場合、一 般公開はできませんが、Googleグループを作成し、そのグループ単位でノートブッ クを共有することで、社内メンバーとの間で知識を安全に共有できます。
C. 組織構造の変化(小規模チームの活用)
「共鳴化」は、特に小規模チーム(タイニーチーム、3〜5人)で優位性が発揮されやすい とされます。
● 知識の民主化:ベテラン社員(深山氏の例)の暗黙知をAIが学習し、それを新人 (新井氏の例)が対話を通じて体得する「共同化→表出化→連結化→内面化→共鳴 化」の新しい知識循環を促進することで、組織全体の集団的知性を成長させます。
● 学習文化の醸成:AI活用を組織に展開する際は、まず小規模チームを前提として成 功循環モデルを回し、オープンに情報を共有し、知識が生まれる文化を育てること が最も大切です。
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